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B's-LOG 2013年9月号 『闘牌★ドラゴンナイト 〜洋上の暴君たち〜』

 

 

「おい、早くしろ」
「ああ……待ってくれ」


夜の海に浮かぶ客船のデッキで、俺は麻雀牌を眺めていた。劉、宇賀神、俺に客を加えた4人で卓を囲んでいる。
俺は初心者だし、あまりルールには詳しくないが、劉の強引な誘いを断れずこのメンツに加わった。とは言ってもこれは金を賭けた麻雀だ。千点につき十万がかかっている。借金を背負い、その上薄給の護衛である俺には、いささかキツい状況だ……。


「しかし昔、香港に居た頃は、よく警官やマフィア連中と打っていたな。銃や家族、車に家まで巻き上げたものさ」
「それは……最悪だな」


劉は俺に、過去の自慢話を振ってきた。


「王と一緒に借金のカタにフェラーリを集めて、“フェラーリ王の劉”と呼ばれたな」
「ややこしいな。フェラーリ王だったのはアンタか」

「無論だ。王は弱いからな……一時は、香港のフェラーリの半分を私が所有していたくらいだぞ」


劉は相変わらず誇らしげだ。


「そうか……」


ツッコミどころもさることながら、少年時代からその性格だったとは……だが、俺は口には出さなかった。ちなみに今の俺の配牌は「ブタ」……まだ一組どころか頭も揃っちゃいない。焦る俺に、宇賀神が忠告してきた。


「JJ……首領の話、話半分に聞いておくのがいいと思いますよ」
「ああ、そうしている……宇賀神、アンタも強いのか」
「ええ。私も学生の頃から“積み込みの宇賀神”と呼ばれていました」
「それ、イカサマじゃないか……」


俺は既に気付いている……この勝負、マジメに挑んでいるのはどうやら俺だけだ。それに、さっきから……


「どうかしましたか、JJ?」
「宇賀神、さっきからジャケットの袖をやたら気にしていないか?」
「気のせいですよ」


宇賀神はにっこり笑って答えたが……その袖の中にいくつものイカサマ牌を隠している。さっきからその牌が順調に手牌に組み込まれているのは、火を見るよりも明らかだ。俺が宇賀神に気をとられていると……


「おい、ゴミがついてるぞ」
「あ? ああ……っ!!」


劉に至っては偶然を装って、俺の手牌をバラバラとなぎ倒していく有様だ。


「なるほど……まだブタか。しかもセコい待ちだな」
「…………見るな」


その隙に宇賀神が入れ替えたのか、ドラが“中”から“八萬”に変わっている。こいつ等……呆れを通り越し、諦めの境地だ。


「俺は……負ける気しかしない……」

 

 *   *   *   *   *

 

夜の海の波の音を聞きながら、俺は起死回生に思いを馳せ、劉と宇賀神は世間話に花を咲かせていた。……金や頭脳に余裕のある男はうらやましい限りだ。
俺だけが目の前の牌を見つめ、真剣に悩んでいた。


「ふん……貴様、やっとタンヤオか」
「………………」


劉のツッコミはその通りだが、いつそれを知ったのか。俺はふと、視界の端にまぶしい光を感じた。俺の後ろに立っていた用心棒の紅棍が、手鏡を持ち、角度をチラチラと変えている。


「おい……あれは何だ?」
「ああ。男の身だしなみだろう。海風でヘアスタイルが乱れるからな」
「奴はスキンヘッドだぞ……どこが乱れるんだ……」


俺のツッコミにも、劉は落ち着いている。しかも鏡には、見事に俺の手牌が映っている。若干のアウェイ感を感じていると、劉が突拍子もないことを言ってのけた。


「……やはり、大物を賭けないと勝負がつまらんな。私はこの船を賭ける。お前らも相応のものを賭けろ」
「さすがです首領。では私は、自分がオーナーを務めるクラブ・ウラシマを賭けましょう」
「じゃあ、自分は……山中湖のログハウスの別荘を」


これまで茶番を静観していた雀客も、平然ととんでもないことを言ってきた。


「悪くないな。デスサイズ、貴様はどうする?」
「いや、生憎、俺に財産は何もない……この身体ひとつしか」
「なら、身体を張って、この船の周りを一周泳げ」
「……いや、待ってくれ。もう秋だぞ」
「大丈夫だ。貴様はまだ若い。残りは出世払いに期待しているぞ……ロン……それで上がりだ」


劉はそう言うと手を伸ばし、上がり手を晒した。


「混一色、ドラ8、親の三倍満だ。デスサイズも今のでフッ飛んだろう。風も冷たくなってきたし、今日は私の一人勝ちということでいいな」
「はい。おめでとうございます、首領」
「…………」


俺は唖然としたが、二人は満足している。全てを出し切ったスポーツ選手のように清々しい顔をして……そんな権利があるとは絶対に思えないのだが。


「JJ、気をつけてくださいね……秋の海は冷たいですし」
「海で身動きがとりやすいように、服を脱ぐことを特別に許可してやる」


宇賀神と劉が、俺にエールらしきものを贈る……


「ああ……感謝するよ」


……俺はとりあえず、今の俺にできることを……屈伸運動を始めた。俺はここで生き残るために、どんなことでもやると決めたのだ。盤上の勝負が終わった今、新たな試練が始まろうとしていた……

 

 

Fin